鳳明館はサツキ(ツツジ科)の開花がスタート。台町別館庭のつつじが見える本館の客室に施されているのがつつじの床柱。Wツツジ演出よりお客様からのリアクションが濃いのが、ツツジのイメージを覆す床柱のツツジの高さ・太さ・形状。このツツジの床柱に代表されるように、鳳明館の木材は銘木・変朴、希少性の高さ、豊富な種類など、木材展示場になりえるほどのラインナップ。といわけで自慢の木材達を一挙大公開。

左:本館 "桔梗の間" ツツジ床柱
中央:本館 "朝日の間 " 欅(ケヤキ)床柱 ※変木ランキングNO.1
右:森川別館 外玄関 柱(白檀 ビャクダン?)下:本館 "末広の間" 梅 落とし掛け
普請道楽
そもそも鳳明館は修学旅行などが団体客主体の旅館であるのに、高級料亭旅館に負けないほど木材への拘りは何故? これは旅館としての鳳明館の創業者が建築に関する造詣が深く、普請道楽だったことが大きく影響。
建築当時、創業者の親戚にあたる旧朝陽館とは、値段の高い欅(けやき)などの木材を共同購入。朝陽館では化粧貼りも適材適所に使用し資材コストを抑える工夫もしていたのに対し、鳳明館の創業者は無垢材等をできる限り使う等の採算度外視傾向。誰も気が付かない所までの拘りは趣味の域?と思えるほど。兄を頼って上京して旅館 旧つたやを創業した弟も”とても兄さんの真似はできない“とこぼしていたとか。

上:森川別館 無垢(欅ケヤキ)式台 樹齢80年余り ※ちなみに階段の踏板も無垢材
左下:台町別館 廊下床材(欅ケヤキ)他旅館と共同購入
右下:森川別館 ”富士の間” 隠れ富士山 壁装飾(端材)と扉上開口部
木材ありきの意匠
当時、本郷の旅館の経営者は大工さんと一緒に建物をつくるのが一般的。鳳明館の創業者も木場に大工の棟梁と買い付けに行き、買い付けた各種木材から1つ1つの客間の意匠を決めていったとか。だから一つとして同じ意匠の客室がないわけです。

台町別館 "入船の間" 上: 3枚の天井板は漢字の"川“か水流。
左下:引き扉 透かし彫りの客室名 右下:透かし彫り帆船
※ ”入船”は財宝を積んだ宝船が入港してくる様から縁起物
バラエティに富んだ銘木・変朴・人造柱
元来 旅館の床の間は茶室と違って装飾性が高く、一つの床の間に色々な種類の木材が使用されているのが特徴。鳳明館の中でも本館は稀少価値の高い銘木・変朴・種類ともにダントツトップ。館内全体で床の間、天井板も含めるとツツジ・椿・柘榴(ザクロ)、欅(ケヤキ)、百日紅(サルスベリ)梅、杉など20種類余り。竹だけでも数種類。仕上げも皮付き、磨き、絞り、焼き、人造(模倣)柱と豊富なバリエーション。

左:本館"えびすの間" 柘榴(ザクロ)床柱 ※変木ランキングNO.2
中央:本館 ロビー人造柱 槐(エンジュ)か一位(イチイ)※一位は創業者の郷里 岐阜県の県木
右:本館 "弥生の間" 梅磨き床柱 ※変木ランキングNO.3

竹バリエーション
左上:森川別館 洗面所上 うねうね竹 右上:本館 ”高砂の間” 四方竹 落とし掛け
左下:本館 ”五月の間” 亀甲竹 ※亀の甲羅に似ているので縁起物, 水戸黄門さんの杖
右下: 本館 "白菊の間” 竹
稀少性の高い天井板
3館の中で一番希少価値が高い天井板は伐採禁止となっている屋久杉。地味な見た目で気が付く人は皆無なのでは? 正面玄関 真上の客間で東向き日出ずる ”あけぼのの間”だから特別に価値のある木材を選んだのかも。

上:本館 "あけぼのの間" 屋久杉天井板
下:本館 "あけぼのの間" 外観
SDG‘s リサイクル材や端材だからこその意匠の面白さ
銘木では出せない意匠。
鳳明館全体であちこちに使用されているのが水車板。当時電力発電が普及し、不要となった安価な水車板が出回っていたのでしょう。実は知人が住む昭和の家でも壁装飾として使用。鳳明館は昭和30年代SDG'sインテリア伝えていることになります。
水車板や端材によるスタイリッシュな意匠が見られるのが森川別館。3館目の建築で、値上がりや品薄等により銘木の使用が厳しくなった分、デザインでカバーしようと創業者や職人さんが頑張って工夫したのでは?

Vの字の切込みが入っている板が水車板
上:森川別館 "末広の間" 扇の飾り天井 ※水車板の弧が扇にマッチ
下:森川別館 “入船の間” 船の舳先部分 ※水車板→水→船という発想?

森川別館 何種類もの木材(端材)だからこそのユニークなデザイン
木材が伝える鳳明館らしさ 真摯さと遊び心
構造材にもこだわった創業者。グレードの高い良質の木材を棟木等に使用していると森川別館の建築調査をされた法政大学高村雅彦教授が発見。東日本大震災でもびくともしなかった築70年近くの森川別館。創業者が選んだ頑強な木材が今も鳳明館を守ってくれています。
創業者は誠実な人柄で人望が厚く、生涯を通じて贅沢と無縁の質素倹約家。それでいて、普請道楽といわれるほど旅館建築に費用と労力を費やした根底には、個人的趣味・自己満足に加えて、お客様に安心、かつ楽しい宿泊を提供できる旅館づくりにむける本気さゆえと感じずにはいられません。
色々な木材をじっくり見れば見るほど、真摯さと遊び心、この2つが古き良き旅館としての鳳明館の旅館建築たらしめる屋台骨となっているという想いが深まっています。
※木材の名称に関しては当時の記録がありません。本館が平成12年(2000年)に東京都の旅館で一番最初の登録有形文化財になった際に、先代本館店長が木場の木材専門店の方に実物をご覧頂き作成した資料からの情報です。

昨日(5月24日)、17時からお世話になった五人組の一人です。読み応えのある記事でした。木材を眺めるためだけに再訪したくなりました。